認知症の母を看病している父の体調がすぐれず、介護の疲れからか父も老いが進み認知症発症のリスクもあります。子供は娘の私1人です。何か準備しておく必要はありますか?
認知症の親御さんからの相続も今増えている問題の一つです。認知症になってしまってからでは手遅れになってしまうケースが多く、早目にご両親と相続に関して話し合う必要があります。
高リスクな認知症における相続問題
認知症における相続では大きく分けて2つの問題があります。1つは被相続人(父)が認知症のケース、もう一つは相続人(母)が認知症のケースです。今回のケースでは被相続人である父と相続人である母のどちらもが認知症になる可能性があります。
通常、被相続人(父)が認知症で遺言書が作成されていない場合には、法定に基づいた相続割合により遺産が配分されます。今回のケースでは子供は相談者の女性1人ですので、母50%、娘50%の相続割合で受け取ることになります。
相続人は母と娘だけですので一見問題がないように見えますが、母が認知症を患っていることで思わぬデメリットが発生する場合があります。
一般的に遺産相続では、相続人全員が集まり「遺産分割協議」を行い、それぞれの配分率を変更する手続きが行われます。しかしこのようなケース場合、法定に沿った分割をしてしまうと大きな問題に発展しかねません。
デメリット1:節税対策ができない
遺産相続では税理士などに依頼し、極力税金がかからない形での遺産分割を行い、相続人の承諾を得た上で遺産を分割します。しかし、相続人である母が認知症の場合には、相続人としての意思決定ができず、法定に沿った割合(50%づつ)での分割しかできないため、高額な税金を支払わなければならない場合もあります。
デメリット2:不動産のデットロック
もう1つのデメリットとしては、自宅などの不動産が2人の共有名義になることです。
法定の遺産分割による相続では家など自宅の不動産も50%づつの分割割合となるため、母と娘の共有名義登記を余儀なくされます。共有名義になることで不動産の賃貸や売却を行う際にも母の承認が必要になります。
ところが母は認知症のため意思決定ができません。
そこで問題になるのが「デッドロック」と呼ばれる現象です。不動産の所有者が意思決定できなくなることで、不動産を売ることも貸すことも、また壊すこともできなくなり、誰も何も手がつけられなくなることです。
父に遺言書を残してもらうことが最良の方法
認知症に対応する制度として「成年後見制度」があります。
「成年後見制度」は認知症や精神障害などにより判断能力が低下してしまった人の代わりに弁護士や司法書士などが本人に代わり意思表示や契約行為を行うことができる制度です。後見制度には本人が元気なうちから後見人を選んでおくことのできる任意後見制度と、既に判断能力が低下してしまったあとに後見人を選ぶ、法定後見制度の2つがあります。
ただし「成年後見制度」はあくまで本人の権利を保証する制度であり、他の相続人にとって都合の良い売却などを許可するものではありません。したがって認知症の母本人がどうしても資金が必要等の事情がない限り家の売却などを進めることはできないと考えてください。
今回のケースでは、現在健康な被相続人である父に相談し、母の症状を考慮した上で遺言書を作成してもらうことが重要です。税理士などを交え、どのような分配方法が最良かを協議する必要があります。
1つ覚えておいて欲しいのは親が認知症になってしまった後では、満足な相続対策はほとんどできないということです。ご両親に認知症のリスクがある場合には、早めの準備が必要です。